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バリアフリー資料リソースセンター(BRC

読書障害者へテキストデータの提供を!
〜特別なニーズをもつ読者と出版社の橋渡しをめざすNPO法人設立〜

成松一郎(バリアフリー資料リソースセンター設立準備会事務局長)
「出版ニュース」2005年1月下旬号 p6〜10

■私と視覚障害者との出会い

 私は、出版編集の仕事にかかわるようになって約20年になる編集者です。昨年(2004年)4月23日からは小さな出版社(読書工房)を主宰する経営者でもあります。

 私が「読書のバリアフリー」問題にかかわるようになったきっかけは、大学1年の頃、たまたま大学の近くにあった盲学校の生徒からの依頼で朗読テープを製作するボランティア活動に参加したことでした。その後、その盲学校の生徒が私の在籍していた大学に点字受験を希望していることがわかり、点訳サークルを結成し、その当時その大学ではまだ認められていなかった点字受験を認めてもらえるよう、教授会回りをしたりしました。

 その当時知り合った市橋正晴さん(当時、視覚障害者読書権保障協議会事務局長)が1996年に設立した「大活字」という出版社の立ち上げにはボランティアとして参加し、翌年市橋さんが不慮の事故で亡くなられた後、市橋さんの遺志を受け継いで、約8年間編集部長を務めさせていただきました。

 この8年間は、非常に大きな動きがあった時期でした。視覚障害者の約7割といわれる弱視者の存在がようやくクローズアップされるようになり、また視覚障害者以外でも、特別なニーズをもつ読者(たとえば、学習障害者、読字障害者、肢体不自由者、知的障害者など)の存在が少しずつ認知されるようになってきたのです。

 また、全国各地で障害者団体が「便利グッズ展」といったイベントをさかんに開催するようになり、私も読書をはじめ日常生活のさまざまな場面における支援グッズの説明やアドバイスをするかたわら、当事者の方が困っている事や要望などをたくさん耳にする機会に恵まれました。図書館関係者やボランティア関係者の講演会に講師として呼ばれることも多く、全国の読書サポート関係者と意見交換を繰り返してきました。

 本稿では、これまでに私が出会ってきたたくさんの視覚障害者が直面している課題の一部を指摘するとともに、このたびNPO法人として設立することとなった「バリアフリー資料リソースセンター(略称:BRC)」について紹介したいと思います。

■視覚障害者にも読書の選択肢を!

 読書障害者といった場合、さまざまな立場の方を想定する必要がありますが、BRCとしては、活動が軌道にのるまでの間、おもに視覚障害者の読書問題をメインに取り組んでいく予定です。そして、まずは視覚障害者の読書の「選択肢」を広げるための活動をおこないたいと思います。

 ここでは、視覚障害者が利用できる選択肢として、つぎの三つの観点を挙げておきます。

(1)自分にあった読書スタイルが選べるという選択肢

 よく視覚障害者の読書の問題に関連して、「そのために点字図書館があるのでは」とか「ボランティアがたくさんいるはずだから問題ないのではないか」と言われます。たしかに、全国には約70館の点字図書館が存在しますし、点訳・音訳関係のボランティア団体も1,000団体を超えると思われます。

 しかし、ここには供給と需要との間に明らかなアンバランスが見られます。たとえば、点字図書館や公共図書館では、弱視者が読めるサイズの拡大図書や、テキストデータはほとんど提供されていません。

 ボランティア団体も圧倒的に点訳か音訳サークルばかりで、拡大については、全国に約100団体しか存在せず、そのほとんどが小・中学校の拡大教科書の製作だけで手一杯なのが現状です。(先日、衆議院文部科学委員会でもこの問題が取り上げられましたが、依頼のあった三分の一は手が回らず断っているそうです)

 ところが、弱視者の数は視覚障害者の7割といわれ、ニーズは圧倒的に多い筈です。一方で点字が読み書きできる人は視覚障害者の1割程度という調査があります。中途で視覚障害になる方がたいへん増えてきていますので、点字使用者はこれからもっと減っていくものと思われます。

 では、音訳図書があればよいのかというと、音訳図書は音だけで表現されますので、文字を辿ることができません。これは点字図書も仮名でできているので同様なのですが、たくさんの視覚障害者が高等教育を受け、さまざまな職業に進出している中で、漢字仮名まじりの文章を扱えることが必須になってきています。すでに点訳・音訳図書を利用されている方の中にも、同時にデータも利用することができれば、漢字を確認しながら読むことができるため、希望されている方が多いのです。パソコンを利用すれば、自分の読める大きさに拡大することもできますし、スクリーンリーダー(画面読み上げソフト)の「詳細読み機能」を使えば、本を読むとき、あるいは自分で文章を入力するときに、音で漢字を確認することができます。

(2)自分の読みたい本が選べるという選択肢

 図書館やボランティアが製作している点訳・音訳図書は、リクエストが比較的多い文芸書やベストセラーに偏っていて、専門書も一部製作されてはいますが、新刊が年間7万タイトル以上出版されている事実と比べると、圧倒的に不足しています。

 そこで、パソコンを利用する視覚障害者は、つぎの二つの方法を通して、なんとか読みたい本にアクセスしようと努力しています。

「自分で出版社に電話をして、テキストデータの提供を交渉する」

「自分でスキャニングして、OCRによるテキストデータ変換をおこなう」

 ところが、前者の場合は、なかなか出版社が応じてくれないケースが多く、後者の場合は、スキャンする手間がとてもかかる(実際、徹夜してOCR変換しているという話をよく聞きます)、OCRの精度が向上したといっても実際には誤読が多く、自分で校正することが困難なため、正確さについて常に不安がつきまとうという問題があります。

 ごく一部のケースですが、本のカバーに印刷されている引換券と返信用切手を出版社に送ることにより、テキストデータを提供するサービスが実施されています。しかし、この方式自体の問題点(引換券を自分で切り取るのが大変な人もいる)もさることながら、なぜか著者が障害者、あるいは内容が障害者関係の本ばかりであることはやはり問題かと思います。

 以前、テレビのドキュメンタリー番組を見ていたときのことです。その番組は二つのコーナーで構成されていましたが、前半は障害者のバリアフリー旅行について取り上げられていたため、丁寧にも聴覚障害者向けの字幕、手話、視覚障害者向けの音声ガイドがわざわざつけられていました。ところが、後半の北朝鮮情勢のコーナーに移った瞬間、字幕、手話、音声ガイドが一切消えてしまいました。これは、制作者側の意識がまだまだ低いことを象徴的にあらわしていると思います。そして、書籍においてもまだ同じような現状なのではないでしょうか。

(3)「借りて読む」「買って読む」が選べるという選択肢

 図書館やボランティアに依頼しなければ、読みたい本が読めないという状況しかないとすれば、「買って読む」という選択はできません。

 ただし、電子書籍が販売されているタイトルの場合、それを購入して読める可能性はあります。しかし、電子書籍の大半において何らかの独自フォーマットが採用されていますので、そのフォーマット自体にアクセシビリティが確保されているかという問題があります。もちろん、そのフォーマット上で若干のアクセシビリティが実現されているケースがありますが、最近アクセシビリティに関するJIS規格が発表されたWEBの分野で明らかなようにかなりの自由度を確保しておかないと、多様なニーズに対応したアクセシビリティの問題は解決しません。その意味で、現時点でもっともアクセシビリティが確保されているのは、テキストデータ形式であることは間違いありません。すでに光文社、徳間書店、祥伝社などがネット書店において、一部の書籍をテキストデータ形式で販売されているということは、とてもすばらしいことだと評価していますし、よい前例になると思います。

■視覚障害以外の読書障害について

 視覚障害者の読書問題に比べると、まだ研究も実践も少なく、BRCとしては、かなり先の課題となりますが、ここでは、視覚障害者以外にどのような立場の人たちが特別なニーズを持っているのか、一例を紹介しておきます。(教育現場においては、文部科学省が「特別支援教育」というカテゴリーを打ち立て、すでに研究をはじめています)

(1)肢体不自由者

 目が見えていれば、読書障害はないと思われるかもしれませんが、視力の状態に関わらず図書へのアクセスが制限されるケースがあります。その一例が脳性疾患や脊髄損傷などで手に障害があったり、首から下が不自由になった場合です。この場合、本を持ったり、ページをめくったりすることが困難になります。また、脳性疾患の場合、視力に問題がなくても、不随意運動によって、文字や文章を直視できないなどのケースがあり、読書が制限されている現状があります。

 これらの方々にとっての読書スタイルは、まだ確立されていませんが、パソコンの利用が大いに考えられます。視覚障害者向けに開発されたスクリーンリーダーの応用なども最近取り組みがはじまったところです。

(2)学習障害者

 学習障害者(LD)の中には文字や図形といった特定の視覚情報を認知するのが困難という障害を持つ人がいます。アメリカの俳優トム・クルーズは自身がディスレクシア(読字障害)であったことをカミングアウトしていますが、文字の認識に障害があったとしても、たとえば音訳図書を併用することによって、読書が可能になることが実証されてきています。文字と音声が同時再生されるマルチメディア・デイジー図書の有効性も指摘されています。

(3)知的障害者

 知的障害者の多くが通常の文章表現だけでは読書が困難な状態にあります。しかし、内容の理解を助けるために、文章で書かれているものをイラストで表現するなどの工夫が考えられます。著作権法上、同一性保持の原則があるため、必ず許諾が必要ですが、北欧などでは「やさしい本」といって、平易な単語や表現に書き換えたり、仮名表記にするなどの工夫も知られています。

(4)聴覚障害者

 先天的な聴覚障害者を中心に、日本手話をメインの言葉としている人たちにとって、一般的な文章の理解に障害がある人たちがいます。また、漢字は単語によってさまざまな読み方をするため、その読み分けが苦手な人もいます。サポート方法としては、ルビ表記をつける、イラストや漫画での説明などが有効といわれています。

■バリアフリー資料リソースセンター(BRC)の設立

 私は、いまから6年ほど前に、全盲の公共図書館司書である服部敦司さん(日本図書館協会障害者サービス委員、現・近畿視覚障害者情報サービス研究協議会事務局長)と出会い、読書障害者の読書環境を整備するためには、データの利用が不可欠であること、また図書館サービスだけにこだわらず、むしろ出版社に協力をもとめて、データ自体の販売を促進するべきであるということを話し合ってきました。

 また、『わかる!盲導犬のすべて』などの著書があり、著者の立場から出版社にバリアフリー出版を呼びかけ、実現してこられた全盲の公務員・松井進さんとも、特別なニーズをもつ読者と、出版社を橋渡しする第三者機関を立ち上げることが必要であるという認識で一致し、このたびNPO法人として「バリアフリー資料リソースセンター(略称:BRC)」を設立することとなりました。(2005年秋認証予定。およそ1年ほどの試行期間を経て、2006年秋ごろから視覚障害者を対象とした本格的なサービス開始を予定しています)

 紙面が限られているため、詳細については設立準備会のHPを参照いただくとして、ここでは運営方法の概略について説明させていただきたいと思います。

 BRCは、市販されている本がそのままの状態では利用できない読者から、自分で買って読みたいけど、現状ではバリアがあり読めない本について、問い合わせを受けます。事務局では、それが電子書籍などの形式ですでに販売されていないか、その形式でその会員が読書可能かどうかを調べ、結果を連絡します。既存の手段で読めない読者のリクエストについて、事務局は原本出版社と連絡をとり、BRCに対してデータ提供してもらえるかどうかを問い合わせます。この場合、提供していただくデータは、テキストデータであることが望ましいのですが、仮にクォークやインデザインなどのレイアウトデータであったとしても、事務局においてテキストデータに変換させていただきますので、それでも構いません。

 つぎに原本出版社の事情でデータ提供が難しいという回答を得た場合は、BRCに登録されている読書サポーターにより入力・校正したデータを読書障害者に提供することを許諾していただいたうえ、実施します。

 このいずれの場合においても、読書障害のある読者自身が原本の価格を支払い、事務局はその代金で原本を1冊購入することを条件にいたしますので、それをもって著作権の処理がおこなわれたということにしたいと考えております。

 なお、一つの本について複数の方からのデータ購入があった際は、一定の規約に基づき、その冊数分の著作権料を出版社に還元できるような仕組みを検討しております。

 BRCを設立する最大の目的は、先ほど説明させていただいた視覚障害者をはじめとする読書障害者が読書する際の選択肢を増やすことであり、また、出版社からアクセシビリティに充分配慮したデータが一つでも多く販売されることを促進することにあります。

 実際には、読者のニーズはきわめて多様であり、出版社がすべてのタイトルのデータ販売を整備するまでにはかなりの時間がかかると思われます。

 そうした現状を考えたとき、読者と出版社の橋渡しを行うBRCの役割は決して小さくないものと思います。

 

■読書サポーターの養成

 BRCでは、読書サポーターの養成事業をおこないます。

 これまで視覚障害者を対象としたボランティア活動として、点訳や音訳などが知られていますが、先ほど書きましたように視覚障害者の希望するメディアは多様化しています。読書サポーターの養成にあたっては、つぎのようなテーマの講義をおこないます。

(1)読書障害者って?

(2)著作権法について

(3)図書館利用に障害のある人へのサービスについて

(4)バリアフリー出版について

(5)視覚障害者はどんなスタイルで読書をしているのか

(6)BRCの紹介

(7)サポーターの活動内容

 とくに著作権については、通常学習する機会があまりありませんので、きちんと研修をおこなうことが肝心だと考えております。ボランティアの方々と話している中で、よく著作権のことが話題になります。そして、きちんとした情報がないため、「著作権=怖いもの」という意識が定着してしまい、下手にかかわらないほうがよいと考えていらっしゃる方が多いように思います。しかし、特別なニーズをもつ読者の立場から考えると、著作権の知識をきちんと持ったうえで、ルールに則った正しい利用を考えていく必要があると思います。

 具体的なサポーターの業務は、当面OCRによるテキスト入力、校正作業がメインになりますが、将来的には読書障害者への情報提供活動(本に関する相談やパソコンソフトの使い方のサポートなど)も視野に入れています。

 

■著作権保護とアクセス権の調和をめざして

 昨年(2004年)2月、「出版物のアクセシビリティを考えるセミナー2004」(主催:公共図書館で働く視覚障害職員の会)というイベントが開催され、私も運営にかかわりましたが、このイベントのメインテーマは「著作権・出版権・読書権の調和」でした。BRCもこの考え方を原則に活動していきたいと考えています。(このセミナーの内容は、読書工房から『本のアクセシビリティを考える』というタイトルで出版しております)

 このセミナーの際、パネリストをお願いした出版社の方から、「不正コピーの心配」が懸念として出されました。BRCとしては、当面、利用できる読者を視覚障害者に限定し、かつ登録制にすることにより、出版社の不安を少しでも軽減していこうと考えておりますが、それと並行して、アクセシビリティを保障したうえでのコピープロテクトのあり方については、できれば共同で研究させていただけないかと考えております。そして、コピープロテクトの議論だけに終始して、多くの読書障害者が読書できる可能性を閉ざしてしまうことだけは絶対に避けなければならないと思います。

 読書障害者の読書環境の改善は、図書館だけの力でも、出版社だけの力でも、ボランティア団体だけの力でも不可能だと思います。最近、コラボレーションという言葉が流行っていますが、官と民、図書館と出版社、ボランティア団体とNPOなどが協力しあって、大きな目標のために、お互いそれぞれの得意・不得意、できること・できないことをわかりあったうえで、いまできることを地道にやっていくことが大切だと思います。

 BRCは本当に小さな試みの一つですが、大きなジグソーパズルを完成させるための1ピースとして、頑張っていこうと思います。

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