二人五脚における「バリアフリー同時出版」の実現には、やはり初めてということで、いくつか問題点もありました。まず、音訳や点訳を行うには、普段はある程度余裕をもって作業を進めることができますが、このたびは原本の出版に併せて他の媒体も出版したため、日程的にかなり厳しかったということでした。結果的に原本の校了から約1カ月で各媒体を完成させる必要があり、製作時間に余裕がなかったのが実状です。
また「バリアフリー出版」という言葉から、何をしてもいいと勘違いされたボランティアの方がおられ、個人で1セット購入されたテープを沢山コピーして、ボランティアグループの会合で無償配布してしまったというケースもありました。その方としては、音訳版のできばえがよく、朗読ボランティアの方の今後の参考になるという理由からこのようなことをしてしまったということでしたが、このような行為が不用意に行われれば、今後の著作権許諾にも悪影響を与えかねない事態です。もちろん悪意から行われた行為ではありませんが、著作権の意識や保護の問題については、私たちももう一度考えなおして見る必要があるかもしれません。
その他、このたびの「バリアフリー同時出版」は前述のようにいろいろなマスコミでご紹介いただくことができましたが、逆に「バリアフリー出版」ということに注目が集まってしまい、本書の内容についての紹介がおざなりになってしまった感がありました。また本書には帯や本文中にも「バリアフリー出版」を行っていることを明記し、点訳版や音訳版等が同時出版されていることを記載しているにも関わらず、複数の公共図書館から朗読テープの許諾の依頼が寄せられました。もし可能であれば、今後バリアフリー出版を推進していく意味からも、朗読テープがあらかじめ準備されている本については、そちらの方をご購入いただき、準備されていない本について一冊でも多く朗読していただく方向でご協力いただければと思います。
その他このたびは「バリアフリー同時出版」ということで、点訳版や音訳版を同時に出版しましたが、通常私たち視覚障害者が本を読みたいと考えた場合、点字図書館や公共図書館またはボランティアグループ等に製作を依頼する必要があります。この場合できあがった点訳版の図書や朗読テープは原則として無料で貸し出されます。ですから私を含め、視覚障害者の多くが、自腹を切って本を買うという文化に乏しい傾向にあります。このたび音訳版としては大変珍しい試みとして、図書館向けだけでなく、個人向けの価格を設定していただき、一般の方向けにも販売しましたが、これは原作の力不足と言われてしまえばそれまでなのですが、やはり一般文字の本の価格に比べれば3倍近くの値段になってしまうこともあってか、なかなか販売個数に結びつかなかったということがありました。また借りるのが当たり前の文化のためか、私とは全く面識のない方からも自宅や職場に電話をしてこられ、どこで借りられるかを尋ねてくる人さえありました。また点訳版や音訳版が出版されているにも関わらず、全国に70カ所近くある点字図書館から購入がほとんどなかったということです。それどころか、真実は定かではありませんが、点字図書館で点訳や音訳版を新たに製作されたという話も聞いています。
大活字版についても、全国の公共図書館約2,600館中、その約半数に当たる1,300カ所程の図書館には大活字コーナーがあるとされていますが、大活字本を新たに出版してもなかなか浸透しないという現状もあります。
この未曾有の不況の中、図書館等の資料費も大幅に削られ、経済事情もかなり厳しい状況であることは私も肌身に沁みて感じていますが、高齢者や障害者向けの情報提供を今後充実していくためにも、皆さんの温かいご協力をいただければ幸いです。
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